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神戸地方裁判所 昭和57年(行ウ)40号 判決 1987年12月21日

三田市下田中一七三

原告

幸田和則

右原告訴訟代理人弁護士

永田徹

羽柴修

神戸市兵庫区水木通二の一

被告

兵庫税務署長

山川忠利

被告指定代理人

笠井勝彦

佐治隆夫

山本正明

前川忠夫

樋口正則

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和五六年五月二六日付けでなした原告の昭和五三年一月一日から同年一二月三一日までの年度所得税の納付すべき税額を金六二万八一〇〇円、過少申告加算税三万〇三〇〇円とする更正処分並びに加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

2  被告が原告に対し、昭和五六年五月二六日付けでなした原告の昭和五四年一月一日から同年一二月三一日までの年度所得税の納付すべき税額を六七万九四〇〇円、過少申告加算税三万一一〇〇円とする更正処分並びに加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は電気工事業を営む者であるが、昭和五三年一月一日から昭和五三年一二月三一日までの事業年度の白色所得税確定申告書に、所得金額五二万七〇〇〇円、納付すべき税額を二万〇四〇〇円と記載して法定期限までに申告した。

2  しかるに被告は、右事業年度分の所得税について、昭和五六年五月二六日付けで所得金額を四三一万二二四〇円、納付すべき税額を六二万八一〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税額を三万〇三〇〇円とする賦課決定処分をした。

3  また原告は、昭和五四年一月一日から昭和五四年一二月三一日までの事業年度の白色所得税確定申告書に所得金額一二〇万円、納付すべき税額を五万五八〇〇円と記載して法定期限までに申告した。

4  しかるに被告は、右事業年度分の所得税について、昭和五六年五月二六日付けで所得金額を四六二万一七二六円、納付すべき税額を六七万九四〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税額を三万一一〇〇円とする賦課決定処分をした。

5  原告はこれらの処分に対し、昭和五六年六月一八日に異議申立てを被告に対してした。しかし、被告は同年一一月三〇日にいずれの異議申立てをも棄却した。

6  そこで、原告はこれらの処分を不服として昭和五七年一月四日大阪国税不服審判所長に対して審査請求をしたところ、同所長は昭和五七年一〇月二七日付けで、右審査請求をいずれも棄却した。

7  しかしながら、原告の本件事業年度分の所得金額並びに納付すべき税額は前記申告額のとおりであり、これを超える本件更正処分は違法であるから、その取消しを求める。

二  請求の原因に対する被告の認否と主張

1  認否

(一) 請求の原因1項は認める。ただし、昭和五三年一月一日から昭和五三年一二月三一日までの事業年度とあるのは昭和五三年分である(以下「昭和五三年分」という)。

(二) 同2項は認める。ただし、右事業年度分とあるのは右年分である。

(三) 同3項は認める。ただし、昭和五四年一月一日から昭和五四年一二月三一日までの事業年度とあるのは昭和五四年分である(以下「昭和五四年分」という)。

(四) 同4項は認める。ただし、右事業年度分とあるのは右年分であり、原告主張の所得金額は事業所得金額のことである。

(五) 同5項は認める。

(六) 同6項は認める。ただし、大阪国税不服審判所長とあるのは国税不服審判所長である。

(七) 同7項は争う。

2  主張

本件係争各年分の課税処分の経過は、別紙申告・更正等の経過表のとおりである。

そして、本件係争各年分の原告の事業所得金額及び総所得金額は、以下に述べるとおりであり、その範囲内でなされた本件更正処分及び過少申告加算税額の賦課決定処分は、いずれも適法である。

なお、係争各年分の事業所得金額の計算の「(2)原価」記載の金額であるが、原告の事業においては係争各年分の期首及び期末に棚卸しをしておらず、在庫量は一定と認められるので、各年分の仕入金額をもってそれぞれの原価とした。

(一) 昭和五三年分

(事業所得金額の計算)

(1) 収入金額 三四六〇万七二八八円

(内訳)

<省略>

<省略>

(2) 原価 一四二一万八四四〇円

(内訳)

<省略>

(3) 差益金額((1)1(2)) 二〇三八万八八四八円

(4) 一般経費 三一一万二一〇八円

(内訳)

<省略>

(5) 差引金額((3)-(4)) 一七二七万六七四〇円

(6) 特別経費 九五四万四三九九円

(内訳)

<省略>

外注費について

昭和五三年分の外注費について原告の領収証等の証ひょう書類が不備であった。

そこで、被告はやむを得ず原告の外注費を推計することとし、前記(1)の収入金額から株式会社大阪ボーリング(以下大阪ボーリングという)の収入金額を差し引いた額に原告の昭和五四年分の外注費率(外注費の収入金額に対する割合)二七・五〇パーセントを乗じて算定した。

なお、原告の係争各年分の収入金額のうち、大阪ボーリングに対する収入金額は材料の販売であり、誠光電機株式会社(以下誠光電機という)に対する収入金額は雑収入であって、いずれも外注費を伴わないものであるから、昭和五三年分の外注費及び同五四年分の外注費率を算定するに当たり大阪ボーリング及び誠光電機に対する収入金額を除き計算したものである。

昭和53年分の外注費

<省略>

(34,607,588円-540,043円)×0.2750=9,368,575円

昭和54年分の外注費率

<省略>

8,172,862円÷(30,127,958円-406,141円)=0.2750

(7) 事業所得金額((5)-(6)) 七七三万二三四一円

(二) 昭和五四年分

(事業所得金額の計算)

(1) 収入金額 三〇一二万七九五八円

(内訳)

<省略>

(2) 原価 一一二〇万二二二三円

(内訳)

<省略>

(3) 差益金額((1)-(2)) 一八九二万五七三五円

(4) 一般経費 三一三万九六〇六円

(内訳)

<省略>

(5) 差引金額((3)-(4)) 一五七八万六一二九円

(6) 特別経費 八三五万四六一〇円

(内訳)

<省略>

外注費の内訳

<省略>

(7) 事業所得金額((5)-(6)) 七四三万一五一九円

(不動産所得金額の計算)

(1) 収入金額 二二万五〇〇〇円

(2) 必要経費 四万九六九三円

(内訳)

<省略>

(3) 不動産所得金額((1)-(2)) 一七万五三〇七円

(総所得金額) 七六〇万六八二六円

(内訳)

<省略>

三  被告の主張に対する原告の認否と反論主張

1  認否

(一) 原告の昭和五三年分総所得金額について

(1) 被告主張の原告の昭和五三年分収入金額について、次のとおり争う。その余は認める。

<1> 株式会社協栄電興 五四七万円

被告は株式会社協栄電興(以下協栄電興という)に対する売上金を三九七万円と主張するが、原告の右会社に対する昭和五四年一月分の売上金三〇〇万円の半額は昭和五三年度中の出来高にかかる分であるから昭和五三年度分の収入とすべきである。即ち、原告は取引先に対し毎月二〇日締めの出来高で請求しているが毎年正月は一〇日過ぎまで仕事はできない。したがって昭和五四年一月二〇日付け請求書の金額中少なくとも半額は同五三年分の出来高に相応するものである。また、被告は昭和五三年一月分の高井設備に対する売上二〇四万六〇六〇円は同年分の所得とはみなさず、昭和五二年分の収入として処理しており、相互に矛盾した取扱いをしている。

したがって原告の昭和五三年中における協栄電興に対する売上金額は金五四七万円である。

<2> 甲北電工社 二一八万一六五〇円

原告の甲北電工社に対する昭和五三年分売上金について、昭和五四年一月分の一四二万八三五〇円の半額は右<1>と同様に昭和五三年分の売上金とすべきである。なお、右金額の下四桁を切捨て七一万円としてこれを被告主張額に加えて算出すると、原告の昭和五三年中における甲北電工社に対する売上金額は金二一八万一六五〇円となる。

<3> 株式会社大阪ボーリング 四二万六〇〇一円

被告主張の金額のうち一一万四〇四二円は前年分の所得であり、昭和五三年分の所得ではないから、これを被告主張額から控除すべきである。

したがって、原告主張の昭和五三年分収入合計は三六七〇万三二四六円となる。

(2) 被告主張の昭和五三年分原価につき、誠光電機は金一一七〇万四二〇六円であり、その余は被告主張のとおりである。なお、原価合計は金一四二四万九四九〇円となる。

(3) 昭和五三年分一般経費の総額三一一万二一〇八円については争わない。

(4) 昭和五三年分特別経費のうち借入金利子割引料一七万五八二四円は争わないが、外注費は全面的に争う。外注費総額並びに明細は左記のとおりである。

(取引先名) (金額)

<1> 島内組 一二、六五二、〇〇〇円

<2> 椴木 三、四七〇、〇〇〇円

<3> 尾崎 六八五、二五一円

<4> 山日 三七、四〇〇円

<5> 魚住 四〇〇、〇〇〇円

<6> 山吹電気 一八四、〇〇〇円

<7> 近畿電機 八〇、〇〇〇円

<8> 港 八〇〇、〇〇〇円

<9> 三谷住宅 二五、〇二〇円

<10> 森田工務店 二一〇、〇〇〇円

<11> 垣崎工務店 三四五、〇〇〇円

<12> リベロン総業 七〇、〇〇〇円

<13> 小西 七〇、〇〇〇円

合計 一九〇二万八六五一円

(二) 原告の昭和五四年分総所得額について

(1) 昭和五四年分収入金額について、争うものは左記のとおり。その余は認める。

(取引先名) (原告主張の金額)

<1> 協栄電興 三、七〇〇、〇〇〇円

<2> 甲北電工社 二、六八六、七九五円

<3> 大阪ボーリング 二八六、六四〇円

なお、収入金額合計は金二七八一万三四五七円。

(2) 昭和五四年分原価についての被告主張のうち、明花電業株式会社(以下明花電業という)は金一九三万四六七〇円である。その余は認める。なお、原価合計額は一一三四万七二二三円である。

(3) 昭和五四年分一般経費につき争う点は左記のとおりであり、その余は認める。

(科目) (原告主張の金額)

<1> 接待交際費 九七三、三八五円

<2> 消耗品費 一、一八三、六四九円

(4) 昭和五四年分特別経費のうち、借入金等の額は認める。なお、外注費明細のうち、椴木富雄との取引額は金三三六万円であり、その余は認める。

(5) 昭和五四年分不動産所得金額について、収入金額が二二万五〇〇〇円であることは認める。

四  原告の反論主張に対する被告の認否と再反論主張

1  認否

(一) 原告主張の総所得金額について

(1) 原告の昭和五三年分協栄電興、甲北電工社、大阪ボーリングに対する売上金額についての主張は全て争う。

(2) 原告主張の昭和五三年分誠光電機に対する原価については争う。

(3) 原告主張の昭和五三年分近畿電気工事株式会社に対する外注費のみ認め、その余の外注費については全て争う。とりわけ、原告は島内組及び椴木富雄に対する外注費支払いに関する領収証及び明細書を提出するが、いずれも作成の時期と記載内容に疑いがあって措信できないので、被告が原告の昭和五三年分の外注費を昭和五四年分の本人外注費率により推計したことは合理性がある。

(4) 原告主張の昭和五四年分協栄電興、甲北電工社、大阪ボーリングからの収入金額については全て争う。

(5) 原告主張の昭和五四年分明花電業に対する原価については争う。

(6) 原告主張の昭和五四年分一般経費中、接待交際費、消耗品費の各金額は全て争う。

(7) 原告主張の昭和五四年分椴木富雄に対する外注費の額は争う。

(二) 減価償却費の計算明細について

原告の係争各年分の減価償却費の計算明細は、別表に記載のとおりである。

なお、誠光電機より昭和五三年三月及び同年六月に仕入れたネジ切り機、また、明花電業より昭和五四年五月に仕入れたネジ切り機は、いずれも原告の事業に使用する工具であって、仕入原価ではなく減価償却資産である。

2  再反論主張

被告は、原告が主張した昭和五三年分の収入金額について、次のとおり反論する。

(一) 協栄電興及び甲北電工社について

被告が主張する原告の昭和五三年分の協栄電興に対する収入金額三九七万円及び甲北電工社に対する収入金額一四七万一六五〇円について、原告は、毎月二〇日締めで出来高に応じて請求しているが、毎年正月は一〇日過ぎまで仕事はできないため、昭和五四年一月分の協栄電興三〇〇万円及び甲北電工社の一五三万一七九五円から追加工事分一〇万三四四五円を控除した一四二万八三五〇円の半額は昭和五三年分の収入金額である旨主張する。

しかしながら、請負契約による収入の確定する時期は、一般原則として引渡しを要するものについてはその目的物を注文者に提供する時であり、引渡しを要しないものについては完成の時である(工事完成基準)。また、出来高払いの特約が付された請負契約において、出来高の引渡しがなされる都度右出来高に対応する工事代金収入が確定すると考えられる(工事進行基準)。

したがって、仮に本件が後者の場合であったとしても、原告は毎月二〇日締めで協栄電興及び甲北電工社に対して請求書を提出しているものであるから、右各請求書に記載の金額は昭和五四年一月二〇日に確定したと解すべきである。

また、原告は、高井設備株式会社(以下「高井設備」という。)に関する一月分二〇四万六〇六〇円をとらえて、被告が右金額を昭和五三年分の収入金額に算入していないことを引き合いに出しているが、右金額については、原告が高井設備に請求したのは昭和五二年一二月二七日付けであり、これが昭和五二年分の取引金額であるとする被告主張に矛盾はない。

(二) 大阪ボーリングについて

被告が主張する二月分一一万四〇四二円について、原告は昭和五二年分の取引であると主張するが、これは大阪ボーリング備付けの帳簿書類等に基づいて正しく回答されたものでありその内容は正確である。

第三証拠

本件記録中書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれらを引用する。

理由

一  請求の原因1ないし6項、本件係争各年分の課税処分の経過については当事者間に争いがない。

二  本件係争各年分の原告の事業所得金額及び総所得金額について

1  昭和五三年分所得金額

(一)  収入金額 三四六〇万七二八八円

(1) 被告主張の原告の昭和五三年分収入金額のうち、協栄電興からの三九七万円、甲北電工社からの一四七万一六五〇円、大阪ボーリングからの五四万〇〇四三円を除く、近畿電気工事株式会社九名からの各収入金額がそれぞれ被告主張の金額であることについては当事者間に争いがない。

(2) 次に、協栄電興及び甲北電工社からの収入金額について検討するに、原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したことが認められる甲第一及び第二号証の各二、証人田中邦雄の証言により真正に成立したことが認められる乙第一号証の一、弁論の全趣旨により真正に成立したことが認められる乙第三号証の一を総合すると、原告の昭和五三年分収入金額のうち、協栄電興からの分は三九七万円、甲北電工社からの分は一四七万一六五〇円であることが認められ、同認定に反する原告本人尋問の結果はにわかに措信できず、他に同認定を左右するに足りる証拠はない。

ところが、原告は右各収入金額について、毎月二〇日締めで出来高に応じて請求しているが、毎年正月は一〇日過ぎまで仕事ができないために、昭和五四年一月二〇日請求の協栄電興に対する収入金額三〇〇万円及び甲北電工社に対する収入金額一五三万一七九五円から追加工事分一〇万三四四五円を控除した一四二万八三五〇円の各半額は昭和五三年分の収入金額である旨主張する。

しかし、原告本人尋問の結果により真正に成立したことが認められる甲第一八号証の一三ないし一七によると、原告が昭和五三年一月一日以降同月一〇日までの間にも仕事をしていたことが窺えるので、一般に正月一〇日までは仕事をしていないという原告の右主張はにわかに採用できないが、この点はともかくとしても、一般に請負契約における収入確定時期は、目的物の引渡しを要するときはその引渡しのとき、また引渡しをしないときは注文完成のとき、更に出来高払いの特約が付されているときは出来高の引渡し又は完成のときと解すべきところ、原告本人尋問の結果により真正に成立したことが認められる甲第一及び第二号証の各一によると、原告は昭和五四年一月二〇日に協栄電興に対し三〇〇万円、甲北電工社に対し一五三万一七九五円を各請求しており、しかも原告本人尋問の結果によると原告自身においても協栄電興の関係ではあるが請求時に出来高を査定し収入を確定する旨述べていることが認められるので、右各収入金額は請求時の昭和五四年一月二〇日に査定確定し、したがって、昭和五四年分の収入となるものと解すべきである。

なお、原告主張の高井設備に対する請求は、弁論の全趣旨により真正に成立したことが認められる乙第七号証によると昭和五二年一二月二七日になされたことが認められるので、右取扱いと相矛盾するものではない。

してみると、右に反する原告の主張は採用できない。

また、大阪ボーリングからの収入金額について検討するに、証人田中邦雄の証言及び弁論の全趣旨により真正に成立したことが認められる乙第四号証の二によると、原告の昭和五三年分の大阪ボーリングからの収入金額は五四万〇〇四三円であることが認められ、原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したことが認められる甲第三号証中右認定に反する部分はにわかに措信できず、他に同認定を左右するに足りる証拠はない。

(3) 以上のとおりであるから、原告の昭和五三年分収入金額は、右(1)と(2)の合計金額三四六〇万七二八八円となる。

(二)  原価(仕入金額) 一四二一万八四四〇円

(1) 被告主張の原価のうち、誠光電機分の一一六七万三一五六円を除く、明花電業外九名に対する原価がそれぞれ被告主張のとおりであることについては当事者間に争いがない。

(2) 次に、誠光電機分の原価について検討するに、証人田中邦雄の証言及びこれにより真正に成立したことが認められる乙第五号証によると、原告の昭和五三年分の誠光電機からの仕入金額(原価)は一一六七万三一五六円であることが認められる。

なお、原告は右原価が一一七〇万四二〇六円(右金額との差額三万一〇五〇円は同社が値引額を記入する際の誤記により生じたもの)である旨主張し、原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したことが認められる甲第一八号証の二〇、二二によると右主張事実が認められるかのようであるが、同甲第一八号証の二三、二四と対比検討すると前掲各証拠だけからは原告の右主張事実を認めることはできず、他に原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(3) 以上のとおりであるから、原告の昭和五三年分仕入原価は右(1)と(2)の合計額一四二一万八四四〇円となる。

(三)  一般経費 三一一万二一〇八円

一般経費の総額が三一一万二一〇八円であることについては当事者間に争いがない。

(四)  特別経費 九五四万四三九九円

(1) 借入金利子割引料 一七万五八二四円

借入金利子割引料が一七万五八二四円であることについては当事者間に争いがない。

(2) 外注費 九三六万八五七五円

原告は島多組外一二名に対する外注費は合計一九〇二万八六五一円である旨主張し、島内松吉に対する外注費については、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨並びにこれらにより真正に成立したことが認められる甲第四号証の一ないし一一、乙第一一号証の一ないし四、第一六号証の一ないし五及び弁論の全趣旨によると、右外注費につき原告主張に沿う領収証及び明細書が原告の手許に存在することが認められ、右事実と原告本人尋問の結果によると、原告がその主張のとおり島内松吉に対し外注費を支払ったことが認められるかのようである。

しかし、右明細書の記載内容はいずれも複数工事を掲げながら一式として金額をまとめて簡単に記載するなど具体性に欠け、また明細書(甲第四号証の一ないし三)と領収証(乙第一一号証の一ないし三)とでは金額に七四万八〇〇〇円の、その他の明細書と領収証間にも金額の差異がみられるがこの点につき首肯しうる説明とその裏付証拠もないうえ、証人島内松吉の証言及びこれにより真正に成立したことが認められる乙第一三号証、証人大上利生の証言及び原告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く)によると、右明細書のうち昭和五三年一月ないし三月分及び同年九月ないし一二月分はいずれもその日付以降、とりわけ原告が異議申立てをした昭和五六年六月一八日以降に作成された、また、右領収証(乙第一一号証の一、二を除く)はいずれも原告がその日付以降に島内松吉より予め交付されていた領収証用紙(島内の住所及び氏名の印と領収印が押捺されその余は白地)を用いて作成したことが窺われる。

してみると、原告の右主張に沿う各証拠、とりわけ右明細書及び領収証はにわかに措信できず、また原告本人尋問の結果の一部もにわかに措信できず、他に原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

(3) 次に、原告の椴木富雄に対する昭和五三年分外注費について検討するに、原告は椴木富雄に外注費三四七万円を支払った旨主張し、これに沿う証拠としては原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したことが認められる甲第五号証の一ないし一二(明細書)があるが、右甲号証は、証人椴木富雄の証言及びこれにより真正に成立したことが認められる乙第八号証を対比検討し、またその記載内容がいずれも椴木の名を記載した次に支払日付と思われる日付の記載があるほかは、一式として金額の記載があるだけで、その具体性に欠けていることなどからして、右明細書の作成時期及びその記載内容には疑いがあってたやすく措信できず、また、前掲の原告本人尋問の結果も他にこれを裏付けるに足りる証拠がないのでにわかに措信できず、他に原告の右主張を認めるに足りる証拠もない。

(4) 以上のとおり、原告主張の島内組及び椴木富雄に対する外注費など外額の外注費分については、原告提出の右資料はにわかに措信できず、また原告の右外注費の実額算定に必要な資料も提出されていない以上は、原告主張のその他の外注費が原告主張の証拠により実額認定できるとしても、昭和五三年分の外注費全体の実額認定ができないといわなければならない。そうすると原告の昭和五三年分外注費を推計の方法により算定することは必要かつやむをえないということができる。

そして、原告の同年分外注費を昭和五四年分の本人外注費率から推計する方法は、原告の昭和五三年分と昭和五四年分の本件認定(昭和五三年分は右認定の、昭和五四年分は後記2のとおり)にかかる営業規模の程度・内容、諸経費等の類似性からみても推計の基礎事実が正確に把握される限り、客観的でかつ本件に最適な推計方法であり、合理性があるものということができる。

この場合原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、大阪ボーリング及び誠光電機に対する各売上金額(収入金額)はいずれも外注費を伴わないものであることが認められるので、右のとおり昭和五三年分の外注費及び同五四年分の外注費率を算定するに当たり大阪ボーリング及び誠光電機に対する各売上金額(収入金額)を除き算定するのが相当である。

そして原告の昭和五三年分総所得金額、大阪ボーリングからの収入金額、昭和五四年分外注費の金額、同年分総収入金額、大阪ボーリング及び誠光電機からの収入金額は、前示1(一)及び後示2(一)、(四)(3)に説示するとおりであり、右各金額は正確に把握されたものと認められるところ、昭和五三年分の外注費につき、右の各金額を基礎とし後記の算定方式に従うことは、十分合理的な推計方式であるということができ、その結果によると、原告の昭和五三年分の外注費の金額は、金九三六万八五七五円であると推認することができる。そして、その算定方式は次のとおりである。

昭和53年分の外注費

(昭和53年分総収入金額-昭和53年分(株)大阪ボーリングからの収入金額)×(原告の昭和54年分外注費率)=(外注費)

(34,607,588円-540,043円)×0,2750=9,368,575円

昭和54年分の外注費率

<省略>

8,172,862円÷(30,127,958円-406,141円)=0.2750

(五)  昭和五三年分事業所得金額

昭和五三年分の(一)収入金額三四六〇万七二八八円から、右(二)の原価一四二一万八四四〇円、(三)の一般経費三一一万二一〇八円、(四)の特別経費九五四万四三九九円を控除した残額七七三万二三四一円が、原告の昭和五三年分事業所得金額となる。

2  昭和五四年分所得金額

(事業所得金額について)

(一) 収入金額 三〇一二万七九五八円

(1) 被告主張の収入金額のうち、(株)協栄電興からの収入金額五二〇万円、甲北電工社からの収入金額三三九万六七九五円、(株)大阪ボーリングからの収入金額三九万一一四一円を除く、(株)世光電気外九名からの収入金額がそれぞれ被告主張の金額であることについては当事者間に争いがない。

(2) 次に、(株)協栄電興、甲北電工社及び(株)大阪ボーリングからの収入金額について検討するに、原告本人尋問の結果により真正に成立したことが認められる甲第一及び第二号証の各一、証人田中邦雄の証言により真正に成立したことが認められる乙第一号証の二、第四号証の一、弁論の全趣旨により真正に成立したことが認められる乙第三号証の二によると、原告の昭和五四年分(株)協栄電興からの収入金額は五二〇万円、甲北電工社からの収入金額は三三九万六七九五円、(株)大阪ボーリングからの収入金額は三九万一一四一円であることが認められ、同認定を左右するに足りる証拠はない。

なお、原告は昭和五四年一月二〇日請求の(株)協栄電興に対する収入金額三〇〇万円(甲第一号証の一)及び甲北電工社に対する収入金額一五三万一七九五円から追加工事分一〇万三四四五円を控除した一四二万八三五〇円(甲第二号証の一)の各半額は昭和五三年分の所得金額である旨主張するが、これが理由のないことは前記二1の(一)(2)で述べたとおりである。

(3) そうすると、原告の昭和五四年分収入金額の合計額は三〇一二万七九五八円となる。

(二) 原価 一一二〇万二二二三円

(1) 被告主張の原価のうち、明花電業の分(一七八万九六七〇円)を除く、誠光電機外九名の原価がそれぞれ被告主張の金額であることについては当事者間に争いがない。

(2) 次に明花電業の原価についてみるに、証人島田邦雄の証言により真正に成立したことが認められる乙第六号証(同社が大阪国税局に対し行った照会回答書)によると、原告主張の昭和五四年分同社の原価一九三万四六七〇円中には同社が原告に対し昭和五四年五月分として売上げに計上した減価償却資産である捻切機一四万五〇〇〇円の代金が含まれていることが認められるので、同金額は原告主張の金額一九三万四六七〇円から控除すべきであり、結局、原告の昭和五四年分同社からの仕入金額(原価)は一七八万九六七〇円となる。

(3) 原価合計額一一二〇万二二二三円

そうすると、原告の昭和五四年分原価合計額は、右(1)と(2)の合計額の一一二〇万二二二三円となる。

(三) 一般経費 三一三万九六〇六円

(1) 一般経費のうち、租税公課八万七一三八円、水道光熱費一万五九一九円、旅費交通費六万三二五〇円、通信費五万〇五三〇円、損害保険料一七万八一八〇円、修繕費四六万四三三〇円、減価償却費(建物を除く)一〇二万〇九三〇円、雑費五万三〇七〇円については当事者間に争いがない。

接待交際費 三七万三三八五円

成立について争いのない乙第一二号証及び弁論の全趣旨によると、原告の昭和五四年分接待交際費は三七万三三八五円であることが認められる。なお、原告は接待交際費は九七万三三八五円である旨主張するが、同主張に沿う原告本人尋問の結果はにわかに措信できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(3) 消耗品費 八三万二八七四円

成立について争いのない乙第一二号証、緑色部分については証人大上利生の証言により真正に成立したことが認められ、その他の部分の成立については当事者間に争いのない乙第九号証の二、証人大上利生の証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告の昭和五四年分消耗品費総額は八三万二八七四円であることが認められる。なお、原告主張の一一八万三六四九円はこれを認めるに足りる証拠はない。

(4) 一般経費総額 三一三万九六〇六円

昭和五四年分の一般経費総額は右(1)ないし(3)の合計額三一三万九六〇六円となる。

(四) 特別経費 八三五万四六一〇円

(1) 特別経費のうち、借入金利子割引料が一四万五五九二円であることについては当事者間に争いがない。

(2) 減価償却費(建物)が三万六一五六円である(計算方法根拠は別紙減価償却費の明細書のとおりである。)ことについては、弁論の全趣旨からしても原告は明らかに争っていないところである。

(3) 被告主張の外注費のうち、椴木富雄に対する外注費二四〇万円を除く、野田塗装外一五名に対する外注費がそれぞれ被告主張の額であることについては当事者間に争いがない。

また、椴木富雄に対する外注費については、成立につき争いのない乙第八号証、第一二号証及び証人椴木富雄の証言によると二四〇万円であることが認められる。

なお、原告は椴木富雄に対する外注費は三三六万円である旨主張し、原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したことが認められる甲第一七号証の一ないし一二(いずれも明細書)中には原告の右主張に沿う原告支払の部分もみられるが、右明細書には椴木富雄が原告から外注費の性格を帯びた金員の支払を受けたことを直接明らかにする記載がないうえ、その作成時期(日付以降)及び記載内容の正確性に疑いもあってにわかに措信できず、これと同旨の原告本人尋問の結果も同様に措信できない。

(五) 以上のとおりであるから、原告の昭和五四年分事業所得金額は、右(一)の収入入金額三〇一二万七九五八円から右(二)の原価合計一一二〇万二二二三円、右(三)の一般経費三一三万九六〇六円、右(四)の特別経費八三五万四六一〇円をそれぞれ控除した残金額七四三万一五一九円であるといわなければならない。

(不動産所得金額)

(一) 不動産所得の収入金額二二万五〇〇〇円

収入金額が二二万五〇〇〇円であることについては当事者間に争いがない。

(二) 必要経費 四万九六九三円

また、右不動産の昭和五四年分の租税公課が一万三五三七円、減価償却費が三万六一五六円であることについては、原告も明らかに争っていないところである。

(三) してみると、原告の昭和五四年分不動産所得金額は一七万五三〇七円となる。

(総所得金額)

以上の次第で、原告の昭和五四年分総所得金額は、右事業所得金額七四三万一五一九円と不動産所得金額一七万五三〇七円の合計額七六〇万六八二六円となるといわなければならない。

三  本件各処分の適法性について

前記二のとおり、原告の昭和五三年分所得金額は七七三万二三四一円、昭和五四年分所得額は七六〇万六八二六円であるところ、被告は原告の昭和五三年分所得金額を四三一万二二四〇円、昭和五四年分所得金額を四六二万一七二六円とそれぞれ認定して、本件各係争年度の前記二の認定所得金額の範囲内で原告主張のとおり本件各更正及び本件過少申告加算税の賦課決定処分をそれぞれ行ったのであるから、右各処分には原告主張のような違法はなく適法なものといわざるをえない。

四  結論

以上の次第であるから、原告の本訴請求はいずれも理由がなく失当なものとして棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田殷稔 裁判官 小林一好 裁判官 植野聡)

別紙

申告・更正等の経過

<省略>

別表

減価償却費の明細

<省略>

<省略>

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